2006/3厚労省・動物実験基本指針パブリックコメント

  国際基準に従ってより具体的な内容を!
    ~動物実験の指針制定に向けて~

 

  厚生労働省が、動物愛護法の改正や文部科学省の動物実験指針制定作業を踏まえて、厚生労働省の関係機関や厚生労働省の所管事業を行う製薬・化粧品等の一般企業を対象として、動物実験基本指針を制定することになりました。現在制定に向けて作業中の文部科学省の基本指針は大学や学術研究機関を対象としていますが、一般企業は対象となっておらず、特に一般企業に対する国レベルの動物実験指針としては今回のこの指針が国内初のものとなり、大変重要なものとなります。
  厚生労働省の指針案は、ほぼ文部科学省の指針案を踏襲したもので、
・3R(代替法、数の削減、苦痛の軽減)への配慮
・機関内規程の策定
・動物実験委員会の設置とその役割、構成
・教育訓練
・各機関における自己点検・評価と情報公開
が内容の主なものとなっていますが、いずれも具体的な部分に踏み込んでおらず、諸外国の同様な法令や指針に比べて著しく簡素なものとなっています。私達はせめて20年前に定められたEUの理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)やCIOMS(国際医学団体協議会)の医学生物学領域の動物実験に関する国際原則(1985)等の国際基準に比べて見劣りの無い内容となることを強く望んでいます。
  皆様におかれましては、日本で犠牲となる年間1000万匹の動物達に成り代わり、下記提案を参考にされ、ぜひとも意見要望を厚生労働省へ提出していただきたく、よろしくお願い申し上げます。

 

 (参考)「厚生労働省における動物実験等の実施に関する基本指針(素案)」の策定経緯及び概要
第29回厚生科学審議会科学技術部会 -議事次第-

 

厚生労働省によるパブリックコメント(意見募集)がスタートしました。
 (4/5 18:00必着)
 厚生労働省の規定に則り意見提出をお願い致します。
 

(当会の提出意見は以下)

 

<該当箇所>
 前文
 「動物実験等が必要かつ唯一の手段である場合があり、」
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「動物実験等が有効な手段である場合があり、」
 <意見の理由>
 「必要」とか「唯一の手段」というのは各人の価値判断に委ねられるものであり、絶対的な真理であったり誰もが認める客観的事実ではない。このような表現では例え「場合があり」という条件付きであっても、ある場合にはこれが絶対的真理となるということを暗に示唆した表現になってしまう。国民の規範となる国の指針にこのような思想強要的な表現を用いるのは全く適当でない。国民の大多数に違和感なく支持され得るためには上記意見のような表現にとどめるのが適当である。

 

 <該当箇所>
 前文
 「動物実験等は、動物の生命又は身体の犠牲を強いる手段であり」
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「動物実験等は、動物の生命又は心身の犠牲を強いる手段であり」
 <意見の理由>
 動物実験は動物の生命や身体のみならず、精神的にも犠牲を強いる行為である。このことを実験に携わる人間に常に意識させることが大切である。

 

 <該当箇所>
 前文「動物愛護の観点」及び第1 1「動物愛護に配慮した」
 <意見の内容>
 「動物愛護」を「動物福祉」とすべき。
 <意見の理由>
 愛護は情緒的なニュアンスが強く抽象的な理念であり、またそもそも意図的に動物に苦痛を与える行為である動物実験とは両立することができない。それに比べ、「動物福祉」はそのような犠牲を肯定した上で尚守るべきより客観的な概念(苦痛を最小限とし健康、安寧、幸福の実現を図ること)として尊重されるべき有効な概念であり、実際に動物実験関係者の間でも多く使われている。前文中の「3Rの原則」の説明も「実験動物の福祉の理念」となっており、こちらの言葉を採用するのが適当である。

 

 <該当箇所>
 第1 1 目的
 「この指針は、人の健康の保持増進及び医学の進展等のために動物実験等が必要不可欠な手段であるものの、命ある動物を用いることを踏まえ」
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「この指針は、人の健康の保持増進及び医学の進展等のために動物実験等が有効な手段である場合があるものの、命と感受性ある動物を用いることを踏まえ」
 <意見の理由>
 「必要不可欠」という表現が不適切であるのは前文への意見に同じである。また動物は単に「命ある」のみではなく、苦痛や感受性を備えた存在であることを全ての実験関係者に意識させることが大切である。

 

 <該当箇所>
 第1 3用語の定義(1)及び本文全体
 <意見の内容>
 「動物実験等」の「等」を削除すべき。
 <意見の理由>
 「動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供すること」は紛れも無く動物実験であり、その他ではない。基本指針全体にわたってこの言葉が使われているが、責任感やめりはりが薄れ、散漫な印象を受ける。特に意味が無いのであれば「等」は削除すべきである。

 

<該当箇所>
 第1 3用語の定義 (2)実験動物
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「動物実験等のため、施設で飼養し、又は保管している脊椎動物をいう。」
 <意見の理由>
 哺乳類、鳥類及び爬虫類以外の動物であっても、両生類や魚類等の脊椎動物は、中枢神経を持ち、神経機構の仕組みが類似しており、一般に苦痛を感じる能力を持つと言われている。動物実験は人以外の動物に意図的に苦痛を与える行為であり、少なくとも人に近い苦痛の感受性を持つと想定される脊椎動物は全て本指針を適用することが倫理に適った考え方である。環境省所管の動物愛護管理法は、虐待や遺棄に対する罰則や動物取扱業の規制において哺乳類、鳥類及び爬虫類を対象としているが、動物実験に関する規定(現行24条、改正41条)では特に限定なく全ての動物を対象としている。

 

<該当箇所>
 第1 3 用語の定義
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「(7)実験動物管理者 実験動物の適正な管理を行うとともに、実験動物の適正な取扱いに関して動物実験実施者等に対する監督、指導並びに助言を行う者をいう。」
 <意見の理由>
 適正な動物実験や実験動物の取扱いを推進するためには、動物実験実施者等を監督する現場責任者を設けることが必須である。また環境省の基準との整合性をとる観点からも必要である。

 

<該当箇所>
 第2 1 機関内規程の策定
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「尚、機関内規程の策定にあたっては、特に動物の苦痛カテゴリー分類とそれぞれのカテゴリーに対する動物実験計画の認可基準をあらかじめ定めること。」
 <意見の理由>
 規程の設置にあたっては特に動物の苦痛を客観的に審査するため、苦痛のカテゴリーと認可基準を定めることが動物福祉の観点から最も大切である。

 

 <該当箇所>
 第2 5 教育訓練等の実施
 「必要な知識の修得を目的とした教育訓練の実施その他動物実験実施者等の資質の向上を図るために必要な措置を講じること。」
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「麻酔や鎮痛、安楽死、保定方法その他必要な知識や技術の修得を目的とした教育訓練の実施その他動物実験実施者等の資質の向上を図るために必要な措置を、実験動物管理者や動物実験委員会と協力して講じること。」
 <意見の理由>
 動物実験は動物の苦痛に直結するため、また麻酔や鎮痛、安楽死等専門知識や技術を使用するため、本来であれば然るべき資格を持った人間が十分な訓練を受けた後に行うべきものである。人間の世界では麻酔は通常麻酔医等、専門の資格を持った人間が行うのに対し、動物実験については現状の法制度では如何なる資格も必要とされていない。このような現状では各機関における教育訓練は大変重い責任を負っていると言わざるを得ない。麻酔、鎮痛、安楽死等については動物実験の基本技術であると同時に動物福祉上最も大切かつ技術を要する処置なので特に例示しておくことが必要である。また動物実験実施者を指導する立場にある実験動物管理者や動物実験委員会の協力を得ることが有効かつ効率的である。
 (参考法令・国際基準)
・SCAW(Scientists Center for Animal Welfare:北米の科学者で構成する非営利組織)
動物の管理および使用に関する委員会を効果的に運用するための勧告 18.
「委員会は、研究者及びその他の職員に対して動物実験に関する訓練の機会を与えるべきである。」

 

<該当箇所>
 第2 5と6の間
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「○ 記録の保存 
 「実施機関の長は、次に掲げる記録を最低5年間保存すること。
 (ア)実験計画書、(イ)実験終了報告書、(ウ)動物実験委員会の議事録、(エ)実験動物の納入及び移送に関わる記録、(オ)実験動物の飼育管理に関する記録、(カ)内部査察に関する記録、(キ)教育研修等に関する記録、(ク)自己点検・評価に関する記録、(ケ)その他実施機関の長が必要と認める記録。
 <意見の理由>
 動物福祉の観点的及び科学的な観点から客観性を担保するために記録を作成し、残すことが必要である。またそのような観点から上記のような項目は最低限例示すべき項目である。
 (参考法令・国際基準)
・米国動物福祉規則2.35
「(a)研究施設は、IACUCに関する以下の記録を保持しなければならない。
  (1)出欠記録を含むIACUC会合の議事録、委員会の活動、委員会の協議内容。(以下略)」
・EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第19条5
「使用者施設は、使用された全動物の記録を保管し、かつ責任当局の求めに応じて提出すること。とりわけ、これらの記録には、取得した全動物の頭数及び種、取得先ならびに到着日を記載すること。前記の記録は、最低3年間保管し、当局の求めに応じて提出すること。」

 

<該当箇所>
 第2 
 「6 自己点検及び評価
 実施機関の長は、実施された動物実験等のこの指針及び機関内規程の適合性について、自ら点検及び評価を行うこと。」
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「6 自己点検及び評価並びに検証
 実施機関の長は、動物実験等の実施に関する透明性を確保するため、定期的に、実施機関において実施された動物実験等のこの指針及び機関内規程への適合性について、自ら点検及び評価を行うとともに、当該点検及び評価の結果について、当該実施機関以外の者による検証を行うことに努めること。」
 <意見の理由>
 文部科学省の基本指針案に倣い、目的(動物実験等の実施に関する透明性を確保するため)や時期(定期的)、及び当該実施機関以外の者による検証についても規定すべきである。

 

<該当箇所>
 第2 7 動物実験等に関する情報の公開
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「実施機関の長は、機関内規程や5の規定に基づく点検及び評価の結果、当該実施機関以外の者による検証の結果、実験動物の飼養及び保管の状況、動物実験委員会の議事録、教育訓練等に関する記録などについて、年1回程度ホームページ等の適切な手段により公開すること。」
 <意見の理由>
 文部科学省の基本指針案に倣い、公開する情報として、当該実施機関以外の者による検証の結果、実験動物の飼養及び保管の状況を例示し、時期についても目安(年1回程度)を規定すべきである。また公開の手段としてはホームページ等、万人が容易に閲覧できる手段が望ましい。また一般市民の関心が特に高い動物実験委員会の議事録や教育訓練等に関する記録についても例示すべきである。

 

<該当箇所>
 第2 
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「8 実験動物管理者の任命
 研究機関等の長は、実験動物の適正な管理を行わせ、また実験動物の適正な取扱いに関して動物実験実施者等に対する監督、指導並びに助言を行わせるために、実験動物に関する十分な知識及び経験を有する獣医師等を実験動物管理者に任命すること。」
 <意見の理由>
 適正な動物実験や実験動物の適正な飼養保管を実現するためには、実験動物に関する高い専門性を有する者をして、動物実験実施者等を監督、指導し、必要に応じて助言を行うことのできる現場責任者とすることが必須である。
 (参考法令・国際基準)
CIOMS医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅹ
「通常の動物の管理は、実験動物科学の分野で経験を持っている獣医師の監督の下でなされなければならない。必要な場合には動物にいつでも獣医学的な管理が与えられるようにしておくべきである。」
・米国動物福祉規則2.33
 (a)「各々の研究施設は、その施設の動物に、本項にしたがった適切な獣医学的ケアを施す担当獣医師を設置しなければならない。」
(a)(2)「各々の研究施設は、担当獣医師に対し、適切な獣医学的ケアと使用に関する側面が適切かどうかも監督できる、適当な権限を与えなければならない。」
・EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第19条2
「各使用者施設においては:
(a) 動物のケアおよび機器機能の管理責任者を指名すること
(d) 獣医師その他の適格な人物が、動物の安寧に関する助言義務を担うべきである。」
・ドイツ動物保護法第8条b
「(1)脊椎動物に対する動物実験が行われる施設の設立経営者は、1人又は2人以上の動物保護受託者を任命し、かつ、その任務を主務官庁に届け出なければならない。
(2)動物保護受託者には、獣医学、医学又は生物学-動物学専攻-を大学で履修した者のみを任命することができる。動物保護受託者は、その任務の遂行に必要な専門的知識及び必要な信頼性を有していなければならない。」

 

<該当箇所>
 第3と第4の間
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「第○ 動物実験実施者の責務
 動物実験実施者は、動物実験等の実施に当たっては、動物実験計画に則り、また実験動物管理者や動物実験委員会の助言に従い、適正に実施すること。また常に麻酔や鎮痛、安楽死、保定方法その他の適切な実験動物の取扱いに関する知識や技術の習得に努めること。」
 <意見の理由>
 研究機関等の長の責務や動物実験責任者の責務のみが謳われ、動物実験実施者に何の責務も規定されないのは片手落ちである。長や責任者のみでなく、動物実験を実際に実施する主体者の心構えを規定することが最も大切なことであり、これが無ければ真に適正な動物実験を期待することはできない。具体的には動物実験委員会の審査を経て実施機関の長が承認した動物実験計画に従うこと、また実験動物の専門家として実験動物管理者の助言、広い視野を求める観点から動物実験委員会の助言に従うことも大切である。また動物福祉上、特に技術習得・向上が期待される麻酔や鎮痛、安楽死、保定方法等について常に向上心を持たせることが期待される。因みに動物実験実施者の資格や能力については現状では如何なる法律や基準にも定めが無いが、このような状態は社会通念に照らして極めて異常である。

 

<該当箇所>
 第4 1動物実験委員会の役割
 <意見の内容>
①審査の観点として以下を追記すべき。
 「(ア)動物福祉の観点又は科学的観点から適正な計画でないと認められる場合、または(イ)動物の苦痛に比べて重要性が低いと認められる場合、または(ウ)既知や類似の実験データが存在すると認められる場合には、動物実験責任者に対し実験方法の改善又は実験内容の変更と動物実験計画の再提出もしくは動物実験計画の取り下げを行わせること。」
②履行結果に関する助言については以下のようにすべき。
 「動物実験計画の履行結果について、実施機関の長より報告を受け、必要に応じ改善措置等に関して実施機関の長に助言を行うこと。」
③役割として以下を追加すべき。
 「当該研究機関等の施設を査察し、実験動物の飼養及び保管状況並びに動物実験等の実施状況を把握して、管理者に報告及び助言を行うとともに、動物実験計画から逸脱した動物実験等、動物福祉の観点又は科学的観点から適正でないと認められる動物実験等については、動物実験責任者に対して実験方法の改善又はその動物実験等の中止を指示すること。」
 <意見の理由>
①上記の3点を動物実験における審査の基本指針として明確に示すべきである。
②助言の内容や宛先が不明確であるため明確にする。
③動物実験計画の審査、終了報告のレビューと助言、施設の査察が本指針に沿った適正な動物実験の実施を担保するために最低限必要な委員会の責務である。
 (参考法令・国際基準)
・米国動物福祉法第13条(b)3
「委員会は,前記の研究施設のすべての動物研究区域、動物施設に対し、少なくとも半年ごとの査察を行い,その査察においては、動物への苦痛や苦悶を最小限にとどめる本法の諸条項が遵守されてることを確認するため,以下の評価を行わなければならない。
 (A)動物に苦痛をもたらす行為。
 (B)動物の置かれている状態。」

 

 <該当箇所>
 第4 2動物実験委員会の構成
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「動物実験委員会は、実施機関の長が任命した委員により構成すること。その構成は、動物実験等に関して優れた識見を有する者、実験動物又は獣医学に関して優れた識見を有する者、人文・社会科学領域の有識者、実験動物技術者又は飼養者、その他研究機関等の長が必要と認める者をもって構成し、その役割にふさわしいものとなるよう配慮すること。またできる限り当該研究機関等と利害関係の無い外部の人間も含めること。」
 <意見の理由>
 委員会の構成は、科学的な観点のみならず、動物福祉や研究の社会的意義の妥当性等を評価するために様々な分野の者を含めることが大切であり、特に動物実験に関わらない者の代表として人文・社会科学領域の有識者、また実際に現場における実験動物の飼育や世話をする観点から実験動物技術者又は飼養者を参加させることが期待される。また公平性の観点から当該研究機関と利害関係の無い外部の人間を含めることも重要である。
 (参考法令・国際基準)
・SCAW(Scientists Center for Animal Welfare:北米の科学者で構成する非営利組織)
動物の管理および使用に関する委員会を効果的に運用するための勧告 4.
「委員会のメンバーには多分野にわたる専門家を選ぶことが望ましい。」
 (例として、獣医師、実験動物科学者、疼痛の専門家、地域を代表する人、人文科学・倫理学・法学の専門家、研究機関における管理者、飼育スタッフ、学生が挙げられている。)
・米国動物福祉法第13条(b)1-B
「少なくとも1名の委員は,
 委員会の委員である以外には,当該施設になんらかの密接な関係を持たない。」

 

<該当箇所>
 第4
 <意見の内容>
 2の後に以下を追加すべき。
 「3 実験計画書
 動物実験委員会は、動物実験責任者に提出させる実験計画書には最低限以下の内容を記載させること。
 (ア)動物実験実施者名、(イ)動物実験等の目的及び期間、(ウ)使用施設、(エ)実験動物の種類並びにその数、(オ)実験動物の入手先、(カ)動物への処置の具体的方法、(キ)実験動物が被る痛み及び不快感の概要と苦痛カテゴリーの分類及びその軽減法、(ク)数の削減や代替法の検討、(ケ)重複・類似実験の有無及び有るにも関わらず動物実験等を行う理由、(コ)実験終了後の処置」
 <意見の理由>
 実施機関ごとに実験計画書の内容にばらつきが生じないよう、最低限の項目については規定しておくべきである。上に挙げた項目は動物福祉の観点及び科学的観点から動物実験の適正さを審査するためにどれも最低限必要な項目ばかりである。

 

 <該当箇所>
 第5 1の前
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「○重複実験の回避
 動物実験計画の立案に当たっては、まず重複する動物実験等を回避するため、過去において類似した動物実験等が存在しないかどうかを調査し、存在する場合には科学上の目的を達することができる範囲においてできる限り行わないこと。また類似した動物実験等が存在するにも関わらず動物実験等を行う場合には、その理由を動物実験計画において明らかにすること。」
 <意見の理由>
 動物の犠牲を少なくする観点から重複・類似実験はできる限り自粛されるべきであり、動物実験計画の立案に当たって一番最初に考慮、調査されるべきである。またこれらの検討結果の妥当性については、客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。

 

<該当箇所>
 第5 1代替法の利用
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「科学上の目的を達することができる範囲において、実験動物を供しない方法もしくは感覚生理学上より発達程度の低い動物を用いる方法が利用できる場合はできる限り当該方法を採用すること。またそれらが可能であるにも関わらずその方法を用いない場合には、その理由を動物実験計画において明らかにすること。」
 <意見の理由>
 動物を用いない方法のみならず、感覚生理学上より発達程度の低い動物を用いる方法も代替法の一種として大切な観点であり、採用されるべきである。またこれらの検討結果については、客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。

 

<該当箇所>
 第5 2 実験動物の選択
 <意見の内容>
 指針案の後に以下を追加すべき。
 「また野生や野良の動物、又は家庭動物や展示動物由来の動物については、できる限り利用しないこと。また実験動物の選択の根拠については動物実験計画において明らかにすること。」
 <意見の理由>
 専用に繁殖された動物とは生い立ちの異なる動物を実験に使用することは動物のストレスが大きく、倫理的、人道的な観点からできる限り避けるべきである。科学的データの信頼性を確保する観点からも望ましくないはずである。また実験動物の選択の根拠については客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。

 

 <該当箇所>
 第5 3 苦痛の軽減
 <意見の内容>
 以下のようにすべき。
 「次に掲げる事項及び飼養保管基準に配慮し、できる限り実験動物に苦痛を与えない方法によること。ただし動物が耐えられない痛みを持続的に被るような動物実験等はその目的の如何に関わらず行わないこと。また実際の配慮事項については動物実験計画において明らかにすること。
ア 動物実験等は原則として全身もしくは局所麻酔下で行うこと、どうしても不可能な場合は鎮痛剤等の使用により動物の苦痛を最低限に抑えること。また外科的な痛みを与える処置を行う場合には必ず麻酔を使用すること。これらについては獣医学的に認められた方法を用いること。
イ 動物実験等の途中であっても、動物が耐えられない痛みあるいは慢性的な痛み、回復の見込みのない障害を被っている場合は、速やかに致死量以上の麻酔薬の投与等により、実験動物にできる限り苦痛を与えないように死なせること。
ウ 苦痛の表明を妨げる筋弛緩薬や麻痺性薬剤を保定のためもしくは麻酔の代わりとして使用しないこと。
エ 大きな障害や苦痛を伴う実験に同じ動物を2回以上使用しないこと。」
 <意見の理由>
これらの規定はEU指令をはじめ世界各国の法律及びCIOMS(国際医学団体協議会:WHOとUNESCOが設立した非政府組織)の動物実験に関する国際原則にも定められており、動物福祉上最も重要な事項であり、苦痛の軽減を徹底するために必要不可欠な項目ばかりである。人道的、倫理的な観点から、必ずもれなく採用すべきである。
 具体的には、アは苦痛軽減における最優先事項を強く明確にする観点から、イは動物をエンドレスな苦痛に晒すことを防ぐ観点から、ウは動物が苦痛を表明することを妨げて苛酷な実験が行われないようにするため、エは同じ動物が繰り返し大きな苦痛に晒される非人道性を避ける観点から、それぞれ必須である。また、動物が耐えられない痛みを持続的(長時間)に被るような実験等は、人道的、倫理的観点から、最も避けるべき行為として、実験の目的の如何に関わらず行われるべきではないことを明記すべきである。また実際の配慮事項については客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。
 (参考法令・国際基準)
 (ア)
・EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第8条
 「1.すべての実験は全身もしくは局所麻酔下で実施すること。」
 「3.麻酔ができない場合は、鎮痛剤その他適切な方法により、痛み、苦しみ、苦悶または害をできる限り抑え、いかなる場合も当該動物が激しい痛み、苦悶または苦しみを受けることがないよう保証すること。」
・フランス動物実験に関する政令第3条
 「苦痛を与える恐れがある生きた動物に対する実験は、全身または局部麻酔をかけた上で、又は同類の鎮痛法を施した上で実施しなければならない。」
・CIOMS(国際医学団体協議会:WHOとUNESCOが設立した非政府組織)
  医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅶ
「瞬間的痛み、最小の苦痛以上の苦痛が生じると思われる処置を動物に行う場合には、獣医学的に容認されている適切な鎮静、鎮痛あるいは麻酔処置を行うべきである。」
 (イ)
・CIOMS(国際医学団体協議会:WHOとUNESCOが設立した非政府組織)
  医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅸ
「実験の最後、あるいは実験の途中でも、動物が耐えられない痛みあるいは慢性的な痛み、回復の見込みのない障害を被っている場合には、動物を安楽死させるべきである。」
 (ウ)
・英国動物(科学的処置)法第17条
 「a.個人免許およびプロジェクト免許により特別に認可されている場合を除き、いかなる神経-筋遮断薬をも使用してはならない。またb.麻酔薬の代わりにいかなる神経-筋遮断薬をも使用してはならない。」
・米国動物福祉法第13条(a)3-C
「麻酔薬を使用せずに麻痺させる手法の禁止」
・ドイツ動物保護法第9条4
 「麻酔をかけない脊椎動物に対しては、痛みの表明が妨げられ、又は制限されるいかなる薬物も使用してはならない。」
・CIOMS(国際医学団体協議会:WHOとUNESCOが設立した非政府組織)
  医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅶ
「外科手術等の痛みをともなう処置は化学物質によって麻痺させた動物に無麻酔で行ってはならない。」
 (エ)
・EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第10条
 「とりわけ激しい痛み、苦悶またはこれらと同等の苦しみが伴う実験に使用された動物は2回以上使用してはならない。
・米国動物福祉法第13条(a)3-D
「いかなる動物も、以下の場合を例外にして、術後回復を伴う大手術実験には1度以上使用されない。(以下略)」
・ドイツ動物保護法第9条5
 「脊椎動物に対し過酷な手術が行われ、又は脊椎動物を、激しいもしくは持続的な痛み苦しみ又は著しい障害を伴う動物実験に使用したときは、当該動物を、再度の動物実験に使用してはならない。」

 

<該当箇所>
 第5 3と4の間
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「○事後措置
 動物実験等を終了し、若しくは中断した実験動物を処分する場合にあっては、速やかに致死量以上の麻酔薬の投与等により、実験動物にできる限り苦痛を与えない方法によって行うこと。当該処置は、原則として獣医師又は十分な訓練を受けた者が実施し、生命活動が途絶えたことを判定できる者が、必ず動物の死を確認すること。ただし、障害や疾病の程度が軽く、かつ安全衛生上問題がなく、かつ譲渡に適すると認められる動物については終生飼養を希望する一般の者へ譲り渡すよう努めること。」
 <意見の理由>
 実験動物の処分は獣医師又は十分な訓練を受けた者に限定し、かつ動物の死を必ず確認することが動物福祉上望まれる。また、実験動物といえども命あるものであることにかんがみ、安全衛生上問題の無い動物については、可能な限り生存機会の拡大に努めるべきである。実験動物として多く使われるげっ歯類は近年、家庭動物として飼養する者も増えており、また一部の機関では実績もあるため十分可能である。

 

<該当箇所>
 第6の後
 <意見の内容>
 以下を追加すべき。
 「第7 補則
 実施機関の長は、脊椎動物以外の動物を動物実験等に利用する場合においてもこの指針の趣旨に沿って措置するように努めること。」
 (注:第1の実験動物の定義では全ての脊椎動物を提案している。)
 <意見の理由>
 無脊椎動物であっても何等かの苦痛が存在する可能性が現状では完全に否定されておらず、また生命尊重の観点からもできる限り本指針を適用すべきである。

 

<該当個所>
 本文最後
 <意見>
 附則として3年~5年毎の見直しを規定するべきである。
 <理由>
 国内外の国際的基準の枠組みの変化、生命科学の進展等に伴う動物実験を取り巻く環境の変化に合わせ、そのときどきの時代の要請に適うように定期的に見直しを行うことを定めるべきである。

 以上