2006/2文科省・動物実験基本指針パブリックコメント

文科省によるパブリックコメント(意見募集)がスタートしました。
 (2/28 18:00必着)
 文科省の規定に則り意見提出をお願い致します。
 

(当会の提出意見は以下)

 

<該当箇所>
 前文
 <意見>
 前文へ動物福祉への配慮、及び3Rの重要性について明記するべきである。
 <意見の理由・背景>
 基本指針案では、「動物の愛護」という言葉が使われているが、愛護は情緒的なニュアンスが強く、またそもそも意図的に動物に苦痛を与える行為である動物実験とは両立することができない。それに比べ、「動物福祉」はそのような犠牲を肯定した上で尚守るべき概念(苦痛を最小限とし健康、安寧、幸福の実現を図ること)として尊重されるべき有効な概念であり、実際に動物実験関係者の間でも使われている。よってこちらの言葉を採用するのが適当である。また3Rについて基本指針案では、この概念が平成17年の改正動物愛護法に盛り込まれたという事実を述べているに止まっているが、前文冒頭で述べられている動物実験の重要性に関する記述とバランスをとるために、3Rの重要性についても明言しておくべきである。

 

 <該当箇所>
 前文
 「動物実験等はそのために必要であり、やむを得ない手段である。」
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「動物実験等はそのための有効な手段の一つである。」
 <意見の理由・背景>
 「必要である」とか「やむを得ない」というのは本来哲学的な議論を要するものであり、国民の規範となる国の指針にこのような短絡的で断定的な表現を用いるのは適当でない。国民の大多数に違和感なく支持され得るためには上記のような表現に止めるのが極めて穏当で適切であると思われる。

 

 <該当箇所>
 第1 定義 (1) 及び基本指針本文全体
 <意見>
 「動物実験等」の「等」を削除すべき。
 <意見の理由・背景>
 「動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供すること」は紛れも無く動物実験であり、その他ではない。基本指針全体にわたってこの言葉が使われているが、なんとなく責任感やめりはりが無くなり、威厳が薄れ、散漫な印象を受ける。特に意味が無いのであれば「等」は削除すべきである。

 <該当箇所>
 第1 定義 (2)実験動物
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「動物実験等のため、施設で飼養し、又は保管している脊椎動物をいう。」
 <意見の理由・背景>
 哺乳類、鳥類及び爬虫類以外の動物であっても、両生類や魚類等の脊椎動物は、中枢神経を持ち、神経機構の仕組みが前者の動物と類似しており、一般に苦痛を感じる能力を持つと言われている。動物実験は人以外の動物に意図的に苦痛を与える行為であり、少なくとも人に近い苦痛の感受性を持つと想定される脊椎動物は全て本指針を適用することが倫理に適った考え方である。環境省所管の動物愛護法は、全般的な動物の愛護と管理を定めるため、現状では哺乳類、鳥類及び爬虫類の保護が中心とされているが、文科省の指針がこれに合わせなければならない理由はない。むしろ前述のような理由から、特に動物実験に限っては全ての脊椎動物を対象とすべきである。

 

 <該当箇所>
 第1 定義
 <意見>
 以下を追加すべき。
 「(8)実験動物管理者 実験動物の適正な管理を行うとともに、実験動物の適正な取扱いに関して動物実験実施者等を監督する者をいう。」
 <意見の理由・背景>
 適正な動物実験や実験動物の取扱いを推進するためには、動物実験実施者等を監督する現場責任者を設けることが必須である。また環境省の基準との整合性をとる観点からも必要である。

 

<該当箇所>
 第2 研究機関等の長の責務
 <意見>
 以下を追加すべき。
 「5 実験動物管理者の任命
 研究機関等の長は、実験動物に関する十分な知識及び経験を有する獣医師等を実験動物管理者に充てるようにすること。」
 <意見の理由・背景>
 実験動物管理者は、実質的に本指針に照らした適正な動物実験や実験動物の取扱いを監督する立場となることが期待され、高い専門性が要求される。
 (参考法令・国際基準)
CIOMS医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅹ
「通常の動物の管理は、実験動物科学の分野で経験を持っている獣医師の監督の下でなされなければならない。必要な場合には動物にいつでも獣医学的な管理が与えられるようにしておくべきである。」
 米国動物福祉規則2.33
 (a)「各々の研究施設は、その施設の動物に、本項にしたがった適切な獣医学的ケアを施す担当獣医師を設置しなければならない。」
(a)(2)「各々の研究施設は、担当獣医師に対し、適切な獣医学的ケアと使用に関する側面が適切かどうかも監督できる、適当な権限を与えなければならない。」
EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第19条2
「各使用者施設においては:
(a) 動物のケアおよび機器機能の管理責任者を指名すること
(d) 獣医師その他の適格な人物が、動物の安寧に関する助言義務を担うべきである。」

ドイツ動物保護法第8条b
「(1)脊椎動物に対する動物実験が行われる施設の設立経営者は、1人又は2人以上の動物保護受託者を任命し、かつ、その任務を主務官庁に届け出なければならない。
(2)動物保護受託者には、獣医学、医学又は生物学-動物学専攻-を大学で履修した者のみを任命することができる。動物保護受託者は、その任務の遂行に必要な専門的知識及び必要な信頼性を有していなければならない。」

 <該当箇所>
 第2と第3の間
 <意見>
 以下を追加すべき。
 「第○ 機関内規程
 機関内規程の策定にあたっては、特に動物の苦痛カテゴリー分類とそれぞれのカテゴリーに対する動物実験計画の認可基準をあらかじめ定めること。」
 <意見の理由・背景>
 規程の設置にあたっては特に動物の苦痛を客観的に審査するため、苦痛のカテゴリーと認可基準を定めることが動物福祉の観点から最も大切である。

 

<該当箇所>
 第3 2動物実験委員会の役割
 <意見>
・①に審査の観点として以下を追記すべき。
(ア)倫理的または科学的に適正な計画でないと認められる場合、または(イ)動物の苦痛に比して重要性が低いと認められる場合、または(ウ)既知や類似の実験データが存在すると認められる場合には、動物実験責任者に対し実験方法の改善又は実験内容の変更と実験計画書の再提出もしくは実験計画の取り下げを行わせること。
・②は以下のようにすべき。
 動物実験計画の履行結果について、動物実験責任者に報告書を提出させ、研究機関等の長に報告するとともに、必要に応じ動物実験責任者に対し助言を行うこと。
・③として以下を追加すべき。
 当該研究機関等の施設を査察し、実験動物の飼養及び保管状況並びに動物実験等の実施状況を把握して、管理者に報告及び助言を行うとともに、実験計画書から逸脱した実験等又は倫理的及び科学的に適正でないと認められる動物実験等については、動物実験責任者に対して実験方法の改善又はその動物実験等の中止を指示すること。
 <意見の理由・背景>
①動物実験における審査の基本指針を示すことが必要である。
②動物実験の履行結果は客観的なレビューを行い、後の改善に活かすために報告書として動物実験責任者から提出させ、助言を行うべきである。
③実験計画の審査、終了報告のレビューと助言、施設の査察が本指針に沿った適正な動物実験の実施を担保するために最低限必要な委員会の責務である。
 (参考法令・国際基準)
 米国動物福祉法第13条(b)3
「委員会は,かかる研究施設の動物実験区域等の動物施設のすべてを少なくとも半年に1回査察し,本条例の諸規定が遵守されて動物の苦痛が最小限に抑えられることを確実にするために,査察の一部として以下の事項を検討する。
 (A)動物の苦痛が伴う慣行。
 (B)動物が置かれている条件。」

 

 <該当箇所>
 第3 3動物実験委員会の構成
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「動物実験委員会は、研究機関等の長が任命した委員により構成すること。その構成は、動物実験等に関して優れた識見を有する者、実験動物又は獣医学に関して優れた識見を有する者、人文・社会科学領域の有識者、実験動物技術者又は飼養者、その他研究機関等の長が必要と認める者をもって構成し、その役割を全うするのに適切なものとなるよう配慮すること。またできる限り当該研究機関等と利害関係の無い外部の人間も含めること。」
 <意見の理由・背景>
 委員会の構成は、科学的な観点のみならず、動物福祉や研究の社会的意義の妥当性等を評価するために様々な分野の者を含めることが大切であり、また公平性の観点から当該研究機関と利害関係の無い人間を含めることが望まれる。
 (参考法令・国際基準)
SCAW(Scientists Center for Animal Welfare:北米の科学者で構成する非営利組織)
  動物の管理および使用に関する委員会を効果的に運用するための勧告 4.
「委員会のメンバーには多分野にわたる専門家を選ぶことが望ましい。」
 (例として、獣医師、実験動物科学者、疼痛の専門家、地域を代表する人、人文科学・倫理学・法学の専門家、研究機関における管理者、飼育スタッフ、学生が挙げられている。)
 米国動物福祉法第13条(b)1-B
「少なくとも1名の委員は,
 委員会の委員である以外には,当該施設になんらかの密接な関係を持たない。」

 

<該当箇所>
 第3 動物実験委員会
 <意見>
 3の後に以下を追加すべき。
 「4 実験計画書
 動物実験委員会は、動物実験責任者に提出させる実験計画書には最低限以下の内容を記載させること。
 (ア)動物実験実施者名、(イ)動物実験等の目的及び期間、(ウ)使用施設、(エ)実験動物の種類並びにその数、(オ)実験動物の入手先、(カ)動物への処置の方法、(キ)実験動物が被る痛み及び不快感の概要と苦痛カテゴリーの分類及びその軽減法、(ク)数の削減や代替法の検討、(ケ)重複・類似実験の有無と有るにも関わらず動物実験等を行う理由、(コ)実験終了後の処置」
 <意見の理由・背景>
 研究機関ごとに実験計画書の内容にばらつきが生じないよう、最低限の項目については規定しておくべきである。

 

<該当箇所>
 第4 1 科学的合理性の確保
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「1 科学的合理性の確保及び3Rへの配慮
 動物実験責任者は、次に掲げる事項を踏まえ、またできる限り実験動物管理者の助言を得て、動物実験計画を立案し、動物実験等を適正に実施すること。」
または
「1 科学的合理性の確保及び3Rへの配慮
 動物実験責任者は、動物実験等により取得されるデータの信頼性を確保し、また3Rを遵守する観点から、次に掲げる事項を踏まえ、またできる限り実験動物管理者の助言を得て、動物実験計画を立案し、動物実験等を適正に実施すること。」
 <意見の理由・背景>
 3Rは科学的合理性の確保とは別に独立して守るべき大切な概念であり、タイトルや説明文に「科学的合理性の確保」や「データの信頼性を確保」のみしか入らないのは大変不適切である。実験動物管理者の助言は適切な実験動物の取り扱いを促進するため、実験計画立案時、動物実験実施時ともに必要であり、故に動物実験実施時には別項目で提案する。

 <該当箇所>
 第4 1(1)①の前
 <意見>
 以下を追加すべき。
 「①重複実験の回避
 「動物実験計画の立案に当たっては、まず重複する動物実験等を回避するため、過去において類似の研究が存在しないかどうかを調査し、存在する場合には科学上の目的を達することができる範囲においてできる限り行わないこと。また調査の結果及び類似の研究が存在しながら動物実験等を行う場合にはその理由を、動物実験委員会へ提出する動物実験計画において明らかにすること。」
 <意見の理由・背景>
 動物の犠牲を少なくする観点から重複・類似実験はできる限り自粛されるべきであり、動物実験計画の立案に当たって一番最初に考慮、調査されるべきである。またこれらの検討結果の妥当性については、客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。

 

<該当箇所>
 第4 1(1)①代替法の利用
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「動物実験計画の立案に当たっては、実験動物を用いない方法もしくは感覚生理学上より発達程度の低い動物を用いる方法について検討及び調査を行い、可能な場合には科学上の目的を達することができる範囲においてできる限り採用すること。また検討及び調査の経緯と結果及び可能でありながらその方法を用いない場合にはその理由を、動物実験委員会へ提出する動物実験計画において明らかにすること。」
 <意見の理由・背景>
 動物を用いない方法のみならず、感覚生理学上より発達程度の低い動物を用いる方法も代替法の一種として大切な観点であり、採用されるべきである。またこれらの検討結果については、客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。因みに素案では「できる限り実験動物を供する方法に代わり得るものを利用すること等により実験動物を適切に利用することに配慮すること。」となっているが、実験動物に代わり得るものを利用する場合には実験動物をそもそも利用しないので、「適切に利用する」というのは変である。動物愛護管理法の表現は数の削減と一体になったものであり、この表現をそのまま流用するのは無理がある。また環境省所管の法律の文言をそのまま流用しなければならない必然性も無い。

 

<該当箇所>
 第4 1(1)②実験動物の選択
 <意見>
 素案の後に以下を追加すべき。
 「また野生や野良の動物、又は家庭動物や展示動物由来の動物については、できる限り利用しないこと。またこれらの実験動物の選択の根拠については動物実験委員会へ提出する動物実験計画において明らかにすること。」
 <意見の理由・背景>
 専用に繁殖された動物とは生い立ちの異なる動物を実験に使用することは動物のストレスが大きく、倫理的、人道的な観点からできる限り避けるべきである。科学的データの信頼性を確保する観点からも望ましくないはずである。また実験動物の選択の根拠については客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。

 

 <該当箇所>
 第4 1(1)③苦痛の軽減
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「科学上の利用に必要な限度において、次に掲げる事項に配慮し、できる限りその実験動物に苦痛を与えない方法によってすること。ただし動物が耐えられない痛みを持続的に被るような動物実験等はその目的の如何に関わらず行わないこと。また実際の配慮事項については動物実験委員会へ提出する動物実験計画において明らかにすること。
ア 動物実験等は原則として全身もしくは局所麻酔下で行うこと、どうしても不可能な場合は鎮痛剤、鎮静剤等の使用により動物の苦痛を最低限に抑えること。また外科的な痛みを与える処置を行う場合には必ず麻酔を使用すること。これらについては獣医学的に認められた方法を用いること。
イ 動物実験等の途中であっても、動物が耐えられない痛みあるいは慢性的な痛み、回復の見込みのない障害を被っている場合は、速やかに致死量以上の麻酔薬の投与等指針に基づき、実験動物にできる限り苦痛を与えないように死なせること。
ウ 苦痛の表明を妨げる筋弛緩薬や麻痺性薬剤を保定のためもしくは麻酔の代わりとして使用しないこと。
エ 大きな障害や苦痛を伴う実験に同じ動物を2回以上使用しないこと。」
 <意見の理由・背景>
これらの規定はEU指令をはじめ世界各国の法律及びCIOMS(国際医学団体協議会:WHOとUNESCOが設立した非政府組織)の動物実験に関する国際原則にも定められており、動物福祉上最も重要な事項であり、苦痛の軽減を徹底するために必要不可欠な項目ばかりである。人道的、倫理的観点から漏れなく採用いただけるようお願い致します。
 具体的には、アは苦痛軽減における最優先事項を強く明確にする観点から、イは動物をエンドレスな苦痛に晒すことを防ぐ観点から、ウは動物が苦痛を表明することを妨げて苛酷な実験が行われないようにするため、エは同じ動物が繰り返し大きな苦痛に晒される非人道性を避ける観点から、それぞれ必須である。また、動物が耐えられない痛みを持続的に被るような実験等は、人道的、倫理的観点から、実験の目的の如何に関わらず行われるべきではない。また実際の配慮事項については客観性を担保するために必ず実験計画書に記載されるべきである。
 (参考法令・国際基準)
 (ア)
EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第8条
 「1.すべての実験は全身もしくは局所麻酔下で実施すること。」
 「3.麻酔ができない場合は、鎮痛剤その他適切な方法により、痛み、苦しみ、苦悶または害をできる限り抑え、いかなる場合も当該動物が激しい痛み、苦悶または苦しみを受けることがないよう保証すること。」
フランス動物実験に関する政令第3条
 「苦痛を与える恐れがある生きた動物に対する実験は、全身または局部麻酔をかけた上で、又は同類の鎮痛法を施した上で実施しなければならない。」
CIOMS医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅶ
「瞬間的痛み、最小の苦痛以上の苦痛が生じると思われる処置を動物に行う場合には、獣医学的に容認されている適切な鎮静、鎮痛あるいは麻酔処置を行うべきである。」
 (イ)
CIOMS医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅸ
「実験の最後、あるいは実験の途中でも、動物が耐えられない痛みあるいは慢性的な痛み、回復の見込みのない障害を被っている場合には、動物を安楽死させるべきである。」
 (ウ)
 英国動物(科学的処置)法第17条
 「a.個人免許およびプロジェクト免許により特別に認可されている場合を除き、いかなる神経-筋遮断薬をも使用してはならない。またb.麻酔薬の代わりにいかなる神経-筋遮断薬をも使用してはならない。」
 米国動物福祉法第13条(a)3-C
「麻酔薬を使用せずに麻痺させる手法の禁止」
ドイツ動物保護法第9条4
 「麻酔をかけない脊椎動物に対しては、痛みの表明が妨げられ、又は制限されるいかなる薬物も使用してはならない。」
CIOMS医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅶ
「外科手術等の痛みをともなう処置は化学物質によって麻痺させた動物に無麻酔で行ってはならない。」
 (エ)
EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第10条
 「とりわけ激しい痛み、苦悶またはこれらと同等の苦しみが伴う実験に使用された動物は2回以上使用してはならない。
 米国動物福祉法第13条(a)3-D
「いかなる動物も、以下の場合を例外にして、術後回復を伴う大手術実験には1度以上使用されない。(以下略)」
ドイツ動物保護法第9条5
 「脊椎動物に対し過酷な手術が行われ、又は脊椎動物を、激しいもしくは持続的な痛み苦しみ又は著しい障害を伴う動物実験に使用したときは、当該動物を、再度の動物実験に使用してはならない。」

 

 <該当箇所>
 第4 1(1)
<意見>
 以下を追加すべき。
 「④事後措置
 動物実験等を終了し、若しくは中断した実験動物を処分する場合にあっては、速やかに致死量以上の麻酔薬の投与等により、実験動物にできる限り苦痛を与えない方法によって行うこと。当該処置は、原則として獣医師又は十分な訓練を受けた者が実施し、生命活動が途絶えたことを判定できる者が、必ず動物の死を確認すること。ただし、障害や疾病の程度が軽く、かつ安全衛生上問題がなく、かつ譲渡に適すると認められる動物については終生飼養を希望する一般の者へ譲り渡すよう努めること。」
 <意見の理由・背景>
 実験動物の処分は獣医師又は十分な訓練を受けた者に限定し、かつ動物の死を必ず確認することが動物福祉上望まれる。また、実験動物といえども命あるものであることにかんがみ、安全衛生上問題の無い動物については、可能な限り生存機会の拡大に努めるべきである。実験動物として多く使われるげっ歯類は近年、家庭動物として飼養する者も増えており、また一部の大学では実績もあり、制度さえ整えば十分可能である。

 

 <該当箇所>
 第4と第5の間
 <意見>
 以下を追加すべき。
 「第○ 動物実験実施者の責務
 動物実験実施者は、動物実験等の実施に当たっては、動物実験計画に則り、また実験動物管理者や動物実験委員会の助言に従い、適正に実施すること。また常に麻酔や鎮痛、安楽死、保定方法その他の適切な実験動物の取扱いに関する知識や技術の習得に努めること。
 <意見の理由・背景>
 研究機関等の長の責務や動物実験責任者の責務(動物実験計画の立案)のみが謳われ、動物実験実施者に何の責務も規定されないのは片手落ちでおかしい。長や責任者のみでなく、動物実験を実際に実施する主体者の心構えを規定することが最も大切なことであり、これが無ければ真に適正な動物実験を期待することはできない。第4(動物実験等の実施)は動物実験責任者のみの遵守事項なので、これを動物実験実施者にも間接的に守らせるためには、動物実験計画に従わせることが必要であり、また実験動物の専門家として実験動物管理者の助言、広い視野を求める観点から動物実験委員会の助言に従うことも大切である。また動物福祉上、特に技術習得・向上が期待される麻酔や鎮痛、安楽死、保定方法について常に向上心を持たせることが期待される。動物実験実施者の資格については現状如何なる法律や基準にも定めが無いが、このような現状は社会通念に照らして極めて異常である。


 <該当箇所>
 第6 1 教育訓練等の実施
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「研究機関等の長は、動物実験実施者等に対し、適正な動物実験等の実施並びに実験動物の適切な飼養及び保管を行うために、麻酔や鎮痛、安楽死、保定方法その他必要な知識や技術の習得を目的とした教育訓練の実施及び動物実験実施者の資質向上を図るために必要な措置を、実験動物管理者や動物実験委員会と協力して講じること。」
 <意見の理由・背景>
 動物実験は動物の苦痛に直結するため、また麻酔や鎮痛、安楽死等専門知識や技術を使用するため、本来であれば然るべき資格を持った人間が十分な訓練を受けた後に行うべきものである。人間の世界では麻酔は通常麻酔医等、専門の資格を持った人間が行うのに対し、動物実験については現状の法制度では如何なる資格も必要とされていない。このような現状では研究機関等における教育訓練は大変重い責任を負っていると言わざるを得ない。麻酔、鎮痛、安楽死等については動物実験の基本技術であると同時に動物福祉上最も大切かつ技術を要する処置なので特に例示しておくことが必要であり、これらは「基礎知識の修得」では済まない。また動物実験実施者を指導する立場にある実験動物管理者や動物実験委員会の協力を得ることが有効かつ効率的と思われる。
 (参考法令・国際基準)
SCAW(Scientists Center for Animal Welfare:北米の科学者で構成する非営利組織)
  動物の管理および使用に関する委員会を効果的に運用するための勧告 18.
「委員会は、研究者及びその他の職員に対して動物実験に関する訓練の機会を与えるべきである。」

 

 <該当箇所>
 第6 2 基本指針への適合性に関する自己点検・評価及び検証
 「研究機関等において実施された動物実験等の基本指針への適合性に関し」
 <意見>
 以下のようにすべき。
 「研究機関等において実施された動物実験等の基本指針及び機関内規程への適合性に関し」
 <意見の理由・背景>
 自己点検、評価は大枠を定める基本指針のみならず、各機関に合わせた現場レベルの詳細なチェックを行うため、機関内規程への適合性も評価することが大切と思われる。
 <補足意見>
 研究機関の長の責任において動物実験の適正さの自己点検を行うこと、及び当該研究機関以外の者による検証を行うことは、一般市民への透明性の確保、それによる実験関係者の自己規律を促進する観点から大変評価できる。上記意見を勘案の上、その他はぜひ素案の通り定めていただきたい。

 

<該当箇所>
 第6 2と3の間
 <意見>
 以下を追加すべき。
 「○ 記録の保存 
 「研究機関等の長は、次に掲げる記録を最低5年間保存すること。
 (ア)実験計画書、(イ)実験終了報告書、(ウ)動物実験委員会の議事録、(エ)実験動物の納入及び移送に関わる記録、(オ)実験動物の飼育管理に関する記録、(カ)内部査察に関する記録、(キ)教育、研修に関する記録、(ク)その他研究機関等の長が必要と認める記録。
 <意見の理由・背景>
 記録を作成し、残すことにより倫理的及び科学的な客観性を担保する。
 (参考法令・国際基準)
 米国動物福祉規則2.35
「(a)研究施設は、IACUCに関する以下の記録を保持しなければならない。」
 「(1)出欠記録を含むIACUC会合の議事録、委員会の活動、委員会の協議内容。(以下略)」

EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第19条5
「使用者施設は、使用された全動物の記録を保管し、かつ責任当局の求めに応じて提出すること。とりわけ、これらの記録には、取得した全動物の頭数及び種、取得先ならびに到着日を記載すること。前記の記録は、最低3年間保管し、当局の求めに応じて提出すること。」

 

<該当箇所>
 第6 3 情報公開
 <意見>
 年1回程度公開する情報の例に、以下を追加すべき。
 「動物実験委員会の議事録、教育訓練に関する記録」
 <意見の理由・背景>
 透明性を確保し、市民の理解を得るとともに、広く社会的な客観性を担保するためには、自己点検評価の記録等とともに、実験計画を審査する動物実験委員会の議事録を公開することがぜひとも期待される。また教育訓練に関する記録も一般市民の関心が高い部分である。
 <補足意見>
 情報公開を促進すること自体、今まで社会的にほとんど閉ざされていた動物を用いた研究に対し、一般市民への透明性確保、説明責任の観点から大変歓迎されるべきことである。上記意見を勘案の上、その他はぜひ素案の通り定めていただきたい。

 

 <該当箇所>
 第6の後
 <意見>
 以下を追加すべき。
 「第7 補則
 研究機関等の長は、脊椎動物以外の動物を実験等に利用する場合においてもこの指針の趣旨に沿って措置するように努めること。」
 (注:第1の実験動物の定義では全ての脊椎動物を提案している)
 <意見の理由・背景>
 無脊椎動物であっても何等かの苦痛が存在する可能性も現状では完全に否定されておらず、また生命尊重の観点からもできる限り本指針を適用すべきである。