2006/1環境省・実験動物基準パブリックコメント

できる限り苦痛を与えない方法の徹底を!
    ~実験動物の基準改正に向けて~

 

  「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」の改正作業が環境省中央環境審議会動物愛護部会実験動物小委員会で進められており、近く制定以来26年ぶりに改正になる見込みです。この基準は昭和55年に公布された告示で、動愛法の第5条4項と第24条3項に基づき、それぞれについての拠るべき基準を定める、という位置づけになっています。ところが実際には第5条4項(動物の適正な飼養及び保管)に関する定めが内容のほとんどを占めており、第24条3項(動物実験におけるできる限り苦痛を与えない方法)に関わる定めはほんのわずかです。また昨今のEUをはじめとする欧米の動物実験に関する詳細な法律や規準と比べ、現状の本基準は甚だ不十分で頼りない基準と言わざるを得ません。

 

  しかしながら本来この基準は動物実験において最も大切な動物福祉の原則である「動物にできる限り苦痛を与えない方法」の細則を定めることができる国レベルの唯一の基準であり、動物福祉上大変重要な位置づけにあると私達は考えます。

  これらの観点からこの度私達は国内外の関連規定を参照しつつ、日本国内の現状に照らして無理の無い範囲となることに配慮し、改正案をまとめました。

 

  皆様におかれましては、日本で犠牲となる年間1000万匹の動物達に成り代わって、下記提案を参考にされ、ぜひとも意見要望を環境省へ提出いただきたく、よろしくお願い申し上げます。

 

<意見要望先>
 〒100-8975 東京都千代田区霞ヶ関1-2-2 
 環境省自然環境局総務課 動物愛護管理室
 (室長:東海林 克彦)
 電話:03-3581-3351
 FAX:03-3508-9278
 e-mail:shizen-some@env.go.jp

 

「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」改正案

 

1 一般原則への福祉概念の追加
  一般原則へ「動物福祉への配慮」という概念を追加する。
 <説明>
  実験動物は人の利益のために犠牲となることを強いられた動物であるが、動物福祉はそのような犠牲を肯定した上で尚守るべき概念(苦痛を最小限とし健康、安寧、幸福の実現を図ること)として尊重されるべき有効な概念である。人の利益のために大きな犠牲を強いられている動物に対し、実験の目的に支障を与えない範囲でこれらのことに配慮することは人類の最低限の責務である。

 

2 展示動物の基準同様の環境エンリッチメント
 最近改正、告示された展示動物の基準と同様、健康及び安全の保持のみならず、生理生態を尊重した飼育条件(群れや組み合わせ等)、自然な行動がとれる環境、遊具や隠れ場等による豊かな環境の構築等について言及する。尚、これらは実験動物生産者の動物の取扱いにも適用する。
 <説明>
  同上。実験関係者が言う「実験動物には実験動物の飼育条件があり、家庭動物や展示動物の飼育条件とは分けて考えなければならない」というのは結局のところ彼等の都合を最優先とし、一切の縛り無く自由にさせてくれと言うための無責任で根拠の無い口実であり、生命に対する差別である。動物実験で多く使われるげっ歯類は現在では多くの人々がペットとして飼っており、それらの生き物の福祉を配慮するにあたって家庭動物や展示動物と分けて考える理由は何等存在しない。欧米では実験動物の環境エンリッチメントは当たり前の考え方になりつつある。

 

3 指針(苦痛カテゴリーを含めること)と動物実験委員会の設置
・ 管理者へ動物実験指針と動物実験委員会の設置を求める。
・ 指針については必ず動物の苦痛レベル分類と対処法、委員会の認可基準について定める。
・ 動物実験委員会は、実験動物学又は獣医学に関する知識並びに経験を有する者、生命科学領域並びに人文・社会科学領域の有識者、その他管理者が必要と認める者をもって構成する。委員はできる限り当該機関と利害関係の無い外部の人間を含める。
・ 動物実験委員会は、実験実施者に対し、実験計画書を作成させ、これを審査するとともに、(1)倫理的または科学的に適正な計画でないと認められる場合、または(2)動物の苦痛に比して重要性が低いと認められる場合、または(3)既知や類似の実験データが存在すると認められる場合には、実験実施者に対し実験方法の改善または実験内容の変更と実験計画書の再提出もしくは実験計画の取り下げを行わせる。
・ 動物実験委員会は、当該機関の施設を査察し、実験動物の飼養及び保管状況並びに実験等の実施状況を把握して、管理者に報告及び助言を行うとともに、実験計画書から逸脱した実験等又は倫理的及び科学的に適正でないと認められる実験等については、実験実施者に対して実験方法の改善、又はその実験等の中止を指示する。
 <説明>
  指針と動物実験委員会の設置は実質的に何のルールも設けられていない動物実験に対して施設や機関単位で自主的に設けられるべき最低限の制度である。また本基準が拠るべき考え方とされる動愛法24条1項の「できる限り動物に苦痛を与えない方法」を客観的・科学的に達成するため、指針には苦痛のカテゴリーと認可基準を含めることが必須である。また動物実験委員会の役割としては実験計画書の審査と施設の査察が本基準に沿った適正な施設の運用を図るための最低限必要な事項である。
 (参)SCAW(Scientists Center for Animal Welfare:北米の科学者で構成する非営利組織)
 動物の管理および使用に関する委員会を効果的に運用するための勧告 4.
「委員会のメンバーには多分野にわたる専門家を選ぶことが望ましい。」
(例として、獣医師、実験動物科学者、疼痛の専門家、地域を代表する人、人文科学・倫理学・法学の専門家、研究機関における管理者、飼育スタッフ、学生が挙げられている。)
米国動物福祉法第13条(b)1-B
「少なくとも1名の委員は,
委員会の委員である以外には,当該施設になんらかの密接な関係を持たない。」
米国動物福祉法第13条(b)3
「委員会は,かかる研究施設の動物実験区域等の動物施設のすべてを少なくとも半年に1回査察し,本条例の諸規定が遵守されて動物の苦痛が最小限に抑えられることを確実にするために,査察の一部として以下の事項を検討する。
(A)動物の苦痛が伴う慣行。
(B)動物が置かれている条件。」

 

4 実験等の計画にあたっての配慮(3R遵守、実験計画書作成)
・ 実験実施者へ動物実験委員会への実験計画書の提出を求める。
・ 実験計画書には実験実施者、動物実験の目的及び期間、使用施設、実験動物の種類並びにその数、実験動物の入手先、動物への処置の方法、実験動物が被る痛み及び不快感の概要と苦痛レベル分類及びその軽減法、数の削減や代替法の検討、実験終了後の処置等の記載を求める。
・ 実験等の計画にあたっては3Rの原則の適用を求める。
・ 実験等の計画にあたっては既知の研究や類似の実験データのある実験の自粛を求める。
・ 専用に繁殖された動物以外の動物(野生動物や野良犬猫、元家庭動物や元展示動物等)の使用を原則禁止とする。
 <説明>
  実験計画書の作成にあたっては動愛法24条1項の「できる限り動物に苦痛を与えない方法」に配慮するため、動物の苦痛レベルの分類とその軽減法について記述させることが大切である。

 

5 長時間かつ強い苦痛を伴う実験の原則禁止
  持続的かつ強い苦痛を伴う実験の原則禁止を定める。
 <説明>
  持続的かつ強い苦痛を伴う実験は理由の如何を問わず倫理的に最も制限されるべき行為として、原則禁止を明確に謳うべきである。

 

6 無麻酔実験の原則禁止
  すべての実験は原則として全身もしくは局所麻酔下で行うこと、どうしても不可能な場合は鎮痛剤、鎮静剤等の使用により動物の苦痛を最低限に抑えること。また外科的な痛みを与える処置を行う場合には必ず麻酔を使用すること。これらについては獣医学的に認められた方法を用いること。
 <説明>
  動愛法24条1項の「できる限り動物に苦痛を与えない方法」の観点から必須である。
 (参)EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第8条
 「1.すべての実験は全身もしくは局所麻酔下で実施すること。」
 「3.麻酔ができない場合は、鎮痛剤その他適切な方法により、痛み、苦しみ、苦悶または害をできる限り抑え、いかなる場合も当該動物が激しい痛み、苦悶または苦しみを受けることがないよう保証すること。」
  フランス動物実験に関する政令第3条
 「苦痛を与える恐れがある生きた動物に対する実験は、全身または局部麻酔をかけた上で、又は同類の鎮痛法を施した上で実施しなければならない。」

 

7 麻痺性薬剤や筋弛緩薬の禁止
  苦痛の表明を妨げる麻痺性薬剤や筋弛緩薬を保定のためもしくは麻酔の代わりとして使用することの禁止を定める。
 <説明>
  国際的にも多くの国の法律や規則で定められており、倫理的観点から必須である。
 (参)英国動物(科学的処置)法第17条
 「a.個人免許およびプロジェクト免許により特別に認可されている場合を除き、いかなる神経-筋遮断薬をも使用してはならない。またb.麻酔薬の代わりにいかなる神経-筋遮断薬をも使用してはならない。」
   米国動物福祉法第13条(a)3-C
「麻酔薬を使用せずに麻痺させる手法の禁止」
   ドイツ動物保護法第9条4
 「麻酔をかけない脊椎動物に対しては、痛みの表明が妨げられ、又は制限されるいかなる薬物も使用してはならない。」

 

8 障害や苦痛を伴う実験への複数回再使用の禁止
  障害や苦痛を伴う実験に同じ動物を2回以上使用しないことを定める。
 <説明>
  国際的にも多くの国の法律や規則で定められており、倫理的観点から必須である。
 (参)EU理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE 86/609/EEC)第10条
 「とりわけ激しい痛み、苦悶またはこれらと同等の苦しみが伴う実験に使用された動物は2回以上使用してはならない。
 米国動物福祉法第13条(a)3-D
「いかなる動物も、以下の場合を例外にして、術後回復を伴う大手術実験には1度以上使用されない。(以下略)」
   ドイツ動物保護法第9条5
 「脊椎動物に対し過酷な手術が行われ、又は脊椎動物を、激しいもしくは持続的な痛み苦しみ又は著しい障害を伴う動物実験に使用したときは、当該動物を、再度の動物実験に使用してはならない。」

 

9 エンドポイントへの配慮
  実験等の終わり、または最中であっても、ひどい苦痛や長時間の痛みと不快にさらされる動物、さらには、不具にならざるを得ない動物は、速やかに致死量以上の麻酔薬の投与等によって、実験動物にできる限り苦痛を与えないように、死なせること。実験実施者及び実験動物管理者は常にエンドポイントの見極めに配慮すること。
 <説明>
  動愛法24条1項の「できる限り動物に苦痛を与えない方法」の観点から必須である。
(参)CIOMS医学生物学領域の動物実験に関する国際原則1-ⅸ
「実験の最後、あるいは実験の途中でも、動物が耐えられない痛みあるいは慢性的な痛み、回復の見込みのない障害を被っている場合には、動物を安楽死させるべきである。」

 

10 記録の作成と保管
  管理者等へ(1)実験計画書(2)実験終了報告書(3)動物実験委員会の議事録(4)実験動物の納入及び移送に関わる記録(5)実験動物の飼育管理に関する記録(6)内部査察に関する記録(7)教育、研修に関する記録(8)その他管理者が必要と認める記録の作成と保管を求める。
 <説明>
 記録を作成し残すことにより倫理的及び科学的な客観性を担保する。

 

11 安楽死を行う人間、実験動物管理者、実験実施者、飼養者の資格
・ 安楽死を行う人間及び実験動物管理者は、獣医師または実験動物学に関する十分な知識並びに経験を有する者を充てること。
・ 飼養者はできる限り獣医学または実験動物学に関する知識並びに経験を有する者を充てること。
・ 実験実施者は、一定度の獣医学または実験動物学に関する知識を有する者であること。また常に麻酔や保定方法その他の動物福祉に関する知識や技術の習得に努めること。
 <説明>
  実験動物に関わる人間は倫理的及び科学的な観点から動物の生態や健康と福祉に関する専門性が要求される。何の資格も要求されない現状は社会通念に照らして極めて異常である。

 

12 実験実施者や飼養者に対する教育・研修制度
  管理者は、実験実施者及び飼養者に対し、実験動物の飼養及び保管並びに実験等における動物の適正な取扱いについて、十分な教育や研修を行うこと。
 <説明>
  実験実施者や飼養者は実験動物へ直接関わる人間であるため、動物の取扱いに関して知識や経験の豊かな人間から十分な教育や研修を受けることが不可欠である。

 

13 実験動物の譲渡(生存機会の拡大)
  実験等を終了し、又は中断した実験動物の処分として、障害や疾病の程度が軽く、かつ安全衛生上問題がなく、かつ譲渡に適すると認められる動物については終生飼養を希望する者へ譲り渡す等の措置を含めること。実験等に使用されない余剰動物や施設の廃止時における動物の処分についても同様とする。
 <説明>
  実験動物といえども命あるものであることに鑑み、可能な限り生存機会の拡大に努めるべきである。実験動物として多く使われるげっ歯類は近年、家庭動物として飼養する者も増えており、また一部の大学では実績もあり、制度さえ整えば十分可能である。

 

14 畜産に関する試験研究の適用除外を無くす
 近年のバイオテクノロジーの発展を背景として、畜産に関する動物実験は農学部や獣医学部その他の研究機関で多量に行われており、他の動物実験と区別する理由は無いため、適用除外としない。
 <説明>
  現行基準では「畜産に関する飼養管理の教育若しくは試験研究又は畜産に関する育種改良を行うことを目的として飼養し、又は保管する実験動物の管理者等には適用しない」となっているが、畜産に関する試験研究は量的にも質的にも動物実験の一分野を成し、他の実験と区別する理由は無い。